キャッシュレス詐欺

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「キャッシュレス決済」のサービスが数多く登場する昨今、ほとんどの人が、何らかのサービスを利用していることだろう。現金いらずのうえ、ボタン1つで会計が済むとあり、その簡便さが大きな魅力となっている。しかし一方で、その手軽さを逆手にとった「詐欺被害」も頻発しているという。

少額を大勢からだまし取るため
犯人の足がつきづらい

クレジットカードやデビットカード、スマートフォンアプリなどを用いるコード決済など、「キャッシュレス決済」の種類が増えてきている。

昨年10月の消費税増税の際に、キャッシュレスでの支払いにはポイントを還元する事業が導入され始めた。これを機に「○○Pay」などのアプリを使い始めた人も多いことだろう。キャッシュレス決済は、我々の日常に根付いてきているのだ。

しかし、こうした新サービスが普及する一方で、サービスを悪用した詐欺の被害も増えてきている。

たとえば、店舗が提示するQRコードを購入者が読み取ることで会計を行う決済方法では、いつの間にか店舗側のQRコードが張り替えられ、売上金が犯人の口座に送金されるという事件があった。また、購入者が自身の持つQRコードを店側に提示し読み取ってもらう形式の決済では、犯人が被害者のQRコードが表示されたスマホの画面を会計待ちの列に並んでいる最中に盗撮し、不正利用したという事件が中国で起きている。

こうしたキャッシュレス決済を悪用した詐欺被害について、さまざまな詐欺被害に詳しいグラディアトル法律事務所の弁護士である清水祐太郎氏は、こう語る。

「当事務所では、『PayPay』のサービスの提供が始まった2018年頃から、こうしたキャッシュレス決済に関する相談が増えてきた印象があります。増えてきたとはいっても、まだまだ現金をだまし取られる詐欺被害のほうが多いですけどね。しかし、実際の被害件数は、我々が把握している以上に多いと思います」(清水氏、以下同)

というのも、キャッシュレス決済のほとんどは被害額が少額で、被害者側が「このくらいの金額なら、弁護士や警察に相談するほどでもないか…」と諦めてしまうことが多いからだという。

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数千万円をだまし取る「仮想通貨詐欺」も増加中

「手軽な決済方法なので、お金を使っている、お金が出ていくということを実感しづらく、そこが加害者たちに狙われてしまうポイントになっているのです。少額ならなおさらでしょう。キャッシュレス詐欺は、従来のような数百万円以上の大きな額ではなく、数千円~数十万円という少額な被害が多い。だから相談も少なく、メディアでも報道されにくいため、あまり周知されていないのです」

被害者が諦めてしまうことが多いため、被害総数が明確にならないというわけだ。明るみに出ないだけで、多くの人が知らず知らずのうちに被害者になっている可能性がある。それが、「キャッシュレス詐欺」の恐ろしさなのだ。

ほかにも、キャッシュレス決済の特長でもある「手軽さ」が、より犯行がしやすい状態にさせるという。

「オンライン上で決済が完了してしまうということは、詐欺行為もオンライン上で完結するということ。つまり、加害者は被害者と顔を合わせずとも、お金をだまし取ることができるのです。犯人の特定が難しい点も、お金を取り返しにくい一因になっており、被害者が『しょうがないか…』と泣き寝入りする状況を作り上げています」

ニュースに取り上げられる詐欺は、1人が数百万~数千万円のお金をだまし取られるというケースが多い。しかし、「ちりも積もれば」の精神でコツコツとキャッシュレス詐欺行為を働く犯人にかかると、多くの人が気づかぬうちにお金をだまし取られてしまう可能性があるのだ。

とはいえ、オンライン上の詐欺でも、1件で数千万円規模の被害が出ている事例も、もちろんある。

「多いのは、『仮想通貨』に関する詐欺ですね。要求される額は数百万~数千万円と大きいのですが、仮想通貨という形にすることで、やはり『お金が出ていく』という実感が乏しくて、支払ってしまう人が多いようです。もしも『仮想通貨を使って投資をするともうかるよ』というような誘い文句を言ってくる人がいたら、よく確認をしたほうがいいでしょう」

「ポイントをキャッシュバック」!?
巧妙なだましの手口

また、オンライン上ではないが、キャッシュレス決済の特性を悪用した対人の詐欺も横行しているという。

「キャッシュレスで決済をすると、ポイントが還元される事業が実施されていますよね。ここに目をつけ、『還元分のポイントをキャッシュバックするので、口座情報と暗証番号を教えてほしい』という詐欺の手口が登場してきているのです。もちろん、そんなキャッシュバックは行われていませんし、たとえ本当にあったとしても、口座の暗証番号が必要なことはありえませんよね。しかし、最新サービスの情報に疎い高齢者は、『よく知らないけど、そういうサービスなのかも…』と、だまされてしまうのです」

古典的な方法であるが、最先端のサービスが絡むだけで、意外とだまされる人が少なくないという。

サービスそのものを悪用した詐欺のターゲットは、実は若い学生層がメインだ。

「今は、お小遣いやお年玉も『○○Pay』などを使い、ネット上の送金で済ませる家庭も増えています。幼いころから現金ではなくキャッシュレスに慣れ親しんで成長してきた世代は、余計に『お金を使っている感覚』が希薄。細かいことを確認せずに決済してしまう傾向が強いため、標的にされやすいようです」

こうした詐欺の被害者にならないために、どのような対策をするといいのだろうか。

「基本的ですが、どんなキャッシュレス詐欺の事例があるのかを知り、知識を身に付けることが、最も重要だと思います。また、少しでも疑問や違和感を覚えることがあれば、その情報の真偽をきちんと調べてみてください」

ごく基本的な対策しかないが、裏を返せば、ごく当たり前の危機感を忘れなければ、サイバー犯罪に巻き込まれることは少ないということだ。もし、我が子がキャッシュレス決済を頻繁に使っているようであれば、「こんな事件があるみたいだから気をつけてね」「利用通知や明細はこまめに確認するように」と、注意喚起をしてあげると良いだろう。

事業者側の
セキュリティー強化に期待

清水氏いわく「とはいえ、そこまで心配はいらないと思いますよ」とのこと。理由は明快で、サービス提供側がセキュリティーを強化してくれるからだ。

「安全なサービスしか利用されないことは、提供側が一番理解しています。今はキャッシュレスサービスが乱立しているからこそ、セールスポイントの1つとして、ほとんどのサービスがセキュリティー面の強化に力を入れています」

どれだけ安全性が高まろうと、抜け穴を見つけて悪事を働く犯罪者がいなくなるわけではない。しかし、サービス側もそれを理解したうえで、補償サービスもより充実させてくれるはずなので、過剰に心配する必要はないという。

「どんなサービスでも不正利用があれば、その操作をキャンセルするよう動いてくれるはずです。ですから、もしも被害に遭ってしまった場合は、まずサービス元へ問い合わせてみてください。可能性は低いとは思いますが、万が一そこで納得のいく対応をしてもらえなかったときは、警察へ相談するといいでしょう」

冗談のようだが、普段何も気にせずにキャッシュレス決済を利用している人は、不正利用があっても気づかないことがあるという。さらに、利用明細に疑わしい内容があっても、「まあ、こんな買い物をした気もするな」と、スルーしてしまうこともあるとか。ボタン1つで済むとはいえ、所持金を失っている実感は決してなくしてはいけない。